宮城県仙台市の総合病院 独立行政法人労働者健康安全機構 東北労災病院(とうほくろうさいびょういん)

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そけいヘルニア

鼠径ヘルニア(そけいヘルニア)

最近の手術実績

ヘルニアの種類(平成26年)
そけい部ヘルニア * 165例
腹腔鏡下手術 101例
前方手術 64例
腹壁ヘルニア手術 16例

*:そけいヘルニア+大腿ヘルニア

右は内鼠径輪の内側に穴が空いている

左鼠径ヘルニア腹腹腔内、内鼠径輪に穴が空いている(左)

そけいヘルニアは、足の付け根、大腿部の上の部分が立位時や力んだときなどに、腫れていることが主な症状です。ときに、その部の痛みや、腹痛をともなうこともあります。まれに腸閉塞を合併することもあります。高齢化に伴い、非常に多くなっている疾患です。若年者とくに子供に多い病気でもあります。治療法は、無症状では少し経過をみますが、基本的に手術になります。

通常は次第に大きくなり、自然に治ることはまれだからです。手術方法は2種類に大別されます。大腿の付け根のそけい部を切る方法(前方手術)と、腹腔鏡を用いた内視鏡下の鼡径ヘルニア修復術(腹腔鏡下手術)があります。 当院は、患者さんの状態に応じ手術方法を選択しております。

前者にはメッシュプラグ法、ダイレクトクーゲル法、PHS法、メッシュを使わない従来法などがあります。最近の麻酔の進歩によって、ほとんど痛みを感じず早期退院、一泊入院手術などが可能になっています。腹腔鏡下手術の方には、下記のようなTAPP法とTEPP法があります。

平成29年2月で、ここ4年で、膨潤腹腔鏡下ヘルニア修復術(膨潤TAPP)を考案し600名を超える患者さんに非常に良好な結果を提供しております。

日帰り一泊入院手術について

対象となる病気;胆石症とそけいヘルニアです。

スケジュール:東北労災病院外科外来に11時までに、朝食をしないでお越しください。外来は月曜なら11時まで、木曜なら午後1時までにお越しください。

当日、手術の日取りなど決定すれば、診察後に手術の詳細を説明します。次に心電図、胸部レントゲン写真、血液検査などの術前検査を行います。1.5時間ほどで終わります。

その後、病棟看護師による入院のオリエンテーションが30分ほどあります。第1日目は以上です。胆石症では、手術日の前にもう一度お越し頂き術前CTを行います。検査は基本的に以上です。

手術当日:8時15分までに外科病棟に入院します。術前の準備がすんだ後、9時15分に手術室に入ります。手術は9時45分に始まります。手術は1時間前後です。術後、麻酔から覚醒すればベッドで病棟に戻ります。術後病棟:疼痛があれば除痛致します。一部吐き気があるときがあり対処します。

午後3時前後に主治医の診察を受けます。夕方5時頃より水分を摂取していただきます。1泊され、朝食をとっていただき8時40分頃に主治医診察 と処置があります。退院の許可があれば午後4時までに帰宅していただきます。

お帰りは、自家用車かタクシーの助手席でゆっくり休める状態でご帰宅できると安心です。帰宅後はその日は活発な行動控えていただきます。痛みなど体調でご心配があれば病棟電話かEメールで対応いたします。

なお、抜糸はありません。その翌日病棟から電話お伺いいたします。疼痛があれば痛み止めを内服していただきます。1泊入院費用;保険3割負担で、15万から20万です。

手術の精度、手術をご心配な方へ:日帰り手術や腹腔鏡下胆嚢摘出術は不確実な面が心配です。この点は、まず術前体調などの条件が合致しなければなりません。

70歳以上の高齢者や胃切除後などの再手術の方は不適当です。手術は、ベテランの術者のよって施行され、胆石症では術中胆道造影が行われますので、安全な手術が行われると自負しております。万が一手術で、術後に不安なところがあれば入院期間を延期させていただきます。また、術翌日の採血でさらに評価し安全を確認してから退院となります。

再発鼠径ヘルニアに対する膨潤TAPP

われわれは膨潤TAPPを考案し307例を経験した。そのうち再発鼠径ヘルニア12例を検討し膨潤効果について考察する。

【対象】60.1歳(28-80歳)男女比11/1。再発鼠径ヘルニア12例14病変である。Ⅰ型6,Ⅱ型7,Ⅲ型1病変。前回手術の修復方法は、Tissue repair7例、メッシュプラグ3例、Kugelパッチ2例であった。

【結果】全例完遂したが、手術平均時間は109.2分であった。MPの1例でメッシュ外側の剥離が不可能でⅡ型ヘルニア門のみメッシュをトリミングして覆った。他のメッシュ修復した4例は通常の14×10cmLサイズのメッシュを留置することができた。他方、Tissue repair7例では、腹膜前腔の癒着がみられたが概ね軽度で手術困難はなかった。膨潤効果によって、腹膜前腔の癒着があっても出血が多くなく剥離でき、単極電気凝固のみで手術可能であった。解剖が明瞭で膀胱前腔の剥離も比較的容易であった。

【まとめ】再発例においても膨潤処置はその後のTAPPを容易にしたが、メッシュの強固な癒着も存在しメッシュの形状の工夫や腹膜修復の工夫を要すると考えられた。

第75回日本心象外科学会総会発表【2013年11月21日(木)~23日(土)名古屋】膨潤腹腔鏡下ヘルニア修復術tAPP法のさらなる工夫:膨潤液+炭酸ガス(TG-TAPP)

東北労災病院 外科
徳村弘実、安本明浩、野村良平、松村直樹、 高橋賢一、 西條文人、武藤満完、舟山 裕士、豊島 隆、生澤史江、千年大勝、柴原みい、澤田健太郎、望月保志

当科では、以前から腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術TAPPの手技的難点を軽減する目的で、経皮的に鼠径部腹膜前腔にロピバカインとエピネフリンの膨潤麻酔剤希釈液約150ml注入することを先行する膨潤tTAPPを考案し経験してきた。

今回、さらなる改良のため膨潤液注入後に二酸化炭素ガスを追加注入する方法、膨潤ガスTAPP(TG-TAPP)を行っているので報告する。

2010年11月より125例のtTAPP、さらにCO2追加tTAPP62例を経験してきた。手技は、生理食塩水130ml、アドレナリン1mg/ml 0.2 ml、アナペイン注7.5mg/mL20mlの膨潤液150mlを、Hesselbach三角上方→外側三角下方→外側三角上方の順に経皮的に鼠径部腹膜前腔に40mlずつ注入するが、Hesselbach三角上方と外側三角上方には炭酸ガスを20-50mlづつ追加注入する。その後、TAPPを施行する。

その結果、tTAPPよりさらに、層確認が容易となり解剖が明瞭で、腹膜と鼠径床を広く剥離しやすくなった。tTAPP特有の合併症はほとんどなく、術後疼痛もまれで、現在まで再発はない。今後、TG-TAPPの普及が期待される。

そけいヘルニアの術式:従来法

IPTR法は上方の腹横筋腱膜を鼠径管後壁最外側のiliopubic tractに縫縮し、脆弱な横筋筋膜に代わり後壁を新たに形成する術式である。高齢者の外鼠径ヘルニアおよび若年者でも後壁の脆弱な症例を対象としている。内鼠径ヘルニアは原則としてメッシュを用いた術式(Leichtenstein法またはPHS法)を第一選択としているが、ヘルニア門が小さく、tissue to tissueでも後壁の補強がtension freeであればIPTR法を選択することがある。

後壁の補強に先立ち、内鼠径、外鼠径を問わず、必ずMarcy法を付加している(PHS法、プラグ法を除く)。以前、内鼠径ヘルニアにIPTR法のみを行った症例で、外鼠径ヘルニアとしての再発を経験しているためである。

Iliopubic tractは鼠径管後壁の最外側にあり、横筋筋膜が鼠径執帯に付着するやや厚みをもった線維性性組織で、上前腸骨疎から恥骨結節までの間を走行する。

「いわゆるBassini法」では腹横筋腱膜を内腹斜筋とともに鼠径靱帯に縫縮するが、鼠径靱帯は鼠径管の前壁を構成するものであり、鼠径靱帯への縫縮は正しく後壁の補強がなされたとは言い難い。

横筋筋膜は腹壁全体を内張りする筋膜で、腹横筋と一体化している。内腹斜筋を頭側にめくり上げるように庄排すると、白色の光沢を有する腹横筋腱膜弓が確認され、頭側は腹横筋に連なる。

横筋筋膜を切開し、腹横筋腱膜弓を確認することを勧める者もいるが、筆者らは白色の光沢を有する腹横筋腱膜弓の確認は容易であり、切開せずに行っている。

精管・精巣動静脈のテープを牽引し、これらの下で腹横筋腱膜をペアン鉗子で把持しておく。このペアン鉗子を下方に牽引し、新たな後壁の緊張度を確認する(左図)。

緊張度が強くtension freeが得られない場合はメッシュを用いた術式(Leichtenstein法)を選択する。

上方の腹横筋腱膜弓が確認されたら、内下方に向かい腹横筋腱膜を追う。

恥骨結節近傍は最も再発の多い部位であり、注意を要する。内下方を十分筋釣で庄排し、内腹斜筋や鎌状靱帯、横筋筋膜、反転靱帯などが合流する結合腱(conjoined area)を明らかにする。

本来、内側はこの結合腱に腹横筋腱膜が縫縮されれば十分であるが、筆者らは恥骨結節の骨膜に糸がかかるようにと、ややオーバーに研修医には指導している。

骨結節側から腹横筋腱膜とiliopubic tractに3-0ナイロン糸をかける。

上方は精索近傍まですべての針糸をかけた後、下方より順に縫合する。内鼠径輪の縫縮は連続縫合を行うこともあるが、IPTRでは必ず単結節縫合とする。 特別大きなHesselbach三角でなければ通常5-6針の結節で十分後壁を形成できる。

縫合後、必ず示指で後壁を圧し、特に恥骨近傍の後壁に脆弱な部分が残っていないことを確認する。上方はMarcy法同様、ペアン鉗子が1本入るくらいまで締め上げる。H esselbach三角が大きく後壁に緊張が高度な場合には、メッシュ法導入前は腹直筋の前鞘に減張切開をおいたうえでIPTR法を行っていたが、十分なtension freeが得られないこと、減張切開部の腹壁ヘルニアが危倶されることから現在では行っていない。

従来法のなかでは、Marcy法は小児のsimple ligationとともに後壁の補強を行わない点で、tension freeの術式といえる。 Marcy法は再発の危険が高い術式とする意見がみられるが、ヘルニア嚢の高位結紫のみを行う小児例での再発率を考えると、若年者で強固な後壁の外鼠径ヘルニアに対しては、内鼠径輪の縫縮のみで十分と考えている。

外鼠径ヘルニアで、後壁補強の要否はヘルニア嚢より示指を挿入し、後壁の厚さや弾力性で強度を評価し判定している。客観的な判定の試みはあるものの、残念ながら確実性に乏しく、経験的なものに委ねられている。

以上、ヘルス出版社 そけいヘルニアの手術-Ⅲ鼠蹊ヘルニアの手術手技P.34より一部引用しました。

当科における腹腔鏡下鼡径ヘルニア修復術(TAPP)の手技定型化への工夫

東北労災病院 外科
松村 直樹、安本 明浩、佐々木 宏之、山崎 満夫、武者 宏昭、福山 尚治、高橋 賢一、豊島 隆、舟山 裕士、徳村 弘実

はじめに

1991年以降、腹膜外腔アプローチ(以下TEPP)145例を経験している。外鼡径ヘルニアではヘルニア嚢と精索との剥離が手技において最も困難で、手術時間を左右する一番の要因となっている。外鼡径ヘルニアにおけるTEPPの手術手技の工夫を提示し、現在までの治療成績を検討する。

手技の要点

ヘルニア嚢を全周性に剥離する際、外側から腹膜縁に沿って剥離を開始する。

可能であれば精管・精巣動静脈をヘルニア嚢から剥離するがこだわらない。外側からラパーゼを挿入し、これをメルクマールに内側から剥離すると容易に全周性剥離ができる。ヘルニア嚢を仮結紮切離したのち、精索に注意しながらヘルニア嚢を切離する。精索が結紮されていれば腹膜のみエンドループで本結紮し、仮結紮糸を解除する。3Dメッシュで補強する。

まとめ

ラパーゼ挿入・仮結紮法は無理な剥離にこだわらないことにより腹膜損傷や臓器損傷を予防し、かつ安定した手術手技を可能にすると考えられた。

はじめに

当科では1992年9月よりTransabdominalpreperitoneal repair(TAPP)を導入し、1997年7月よりTotally extraperitoneal preperitoneal repair (TEPP)を導入した。1992年9月から2005年12月までに当科で経験した腹腔鏡下ヘルニア修復術症例における治療成績、合併症などを検討した。

背景

症例は196例(男女比176:20)、平均年齢は57.6才であった。

部位は片側171例(左側80例、右側91例)、両側25例で内鼠径ヘルニア64例、外鼠径ヘルニア159例、膀胱上窩ヘルニア3例、大腿ヘルニア2例、再発症例3例であった。術式はTAPP群99例(TEPPからの移行2例)、TEPP群97例であった。

結果

平均手術時間は全体では82.0分でTAPP群では73.0分、TEPP群では91.3分で、TEPP群で手術時間の延長を認めた(p = 0.0002)。一方、平均術後退院日数の検討では、全体では6.1日で、TAPP群が7.1日に対し、TEPP群で4.9日とTEPP群が短い傾向が見られた(p < 0.0001)。

合併症は全体で26例(13.3%)に認められた。TAPP群では水腫3例(3.0%)、血腫3例(3.0%)、再発2例(2.0%)、膀胱損傷1例(1.0%)で、TEPP群では水腫10例(10.3)、血腫6例(6.2%)、小脳梗塞1例(1.0%)であった。有意差はなかったがTEPP群で多い傾向であった。両群とも術後感染はなかった。

まとめ

手術時間はTEPPのほうが長時間の傾向が見られた。術後在院日数はTEPPで短い傾向が見られた。手術術式では合併症の発生率に差はなかったが、TEPPでやや多い傾向が見られた。いずれの群にも術後感染は見られなかった。

大腿ヘルニア紋扼性嵌頓症例の検討

東北労災病院 外科
安本 明浩、徳村 弘実、舟山 裕士、豊島 隆、高橋賢一、福山 尚治、武者 宏昭、山崎 満夫、松村 直樹、佐々木 宏之

目的

当院での大腿ヘルニア紋扼性嵌頓症例について検討したので報告する。

対象

2005年1月から2007年12月までの5年間に当院で経験した大腿ヘルニア紋扼性嵌頓症例13例。

結果

年齢は68歳から96歳までで平均77.7歳であった。男女比は2:11で女性に圧倒的に多かった。部位は右側7例、左側6例であった。嵌頓内容は小腸12例、盲腸の脂肪垂1例であった。嵌頓内容が小腸であった12例を腸切除群(A群)4例、腸非切除群(B群)8例に分け検討した。

平均年齢はA群77.4歳、B群77.3歳であった。 主訴として嘔気、嘔吐、腹痛などの腸閉塞症状を認めた症例はA群4例、B群6例であった。来院時白血球数はA群8025/mm3、B群9387/mm3であった。術式は、A群では開腹+大腿輪縫縮2例、PHS1例、Mesh-plug1例、B群ではMesh-plug、PHSなどのメッシュを8例全例に使用した。

術後合併症については、A群では4例中3例に認め、敗血症1例、誤嚥性肺炎1例、原因不明のショック1例(死亡)であった。B群では術後合併症を認めなかった。

結語

大腿ヘルニア紋扼性嵌頓において、腸切除例は腸非切除例に比べて術後合併症を多く認めた。

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