研修目標・実務研修の方略、評価
1. 研修の到達目標
Ⅰ 到達目標
医師は、病める人の尊厳を守り、医療の提供と公衆衛生の向上に寄与する職業の重大性を深く認識し、医師としての基本的価値観(プロフェッショナリズム)及び医師としての使命の遂行に必要な資質・能力を身に付けなくてはならない。医師としての基盤形成の段階にある研修医は、基本的価値観を自らのものとし、基本的診療業務ができるレベルの資質・能力を修得する。
A. 医師としての基本的価値観(プロフェッショナリズム)
1.社会的使命と公衆衛生への寄与
社会的使命を自覚し、説明責任を果たしつつ、限りある資源や社会の変遷に配慮した公正な医療の提供及び公衆衛生の向上に努める。
2.利他的な態度
患者の苦痛や不安の軽減と福利の向上を最優先し、患者の価値観や自己決定権を尊重する。
3.人間性の尊重
患者や家族の多様な価値観、感情、知識に配慮し、尊敬の念と思いやりの心を持って接する。
4.自らを高める姿勢
自らの言動及び医療の内容を省察し、常に資質・能力の向上に努める。
B. 資質・能力
1.医学・医療における倫理性
診療、研究、教育に関する倫理的な問題を認識し、適切に行動する。
- 人間の尊厳を守り、生命の不可侵性を尊重する。
- 患者のプライバシーに配慮し、守秘義務を果たす。
- 倫理的ジレンマを認識し、相互尊重に基づき対応する。
- 利益相反を認識し、管理方針に準拠して対応する。
- 診療、研究、教育の透明性を確保し、不正行為の防止に努める。
2.医学知識と問題対応能力
最新の医学及び医療に関する知識を獲得し、自らが直面する診療上の問題について、科学的根拠に経験を加味して解決を図る。
- 頻度の高い症候について、適切な臨床推論のプロセスを経て、鑑別診断と初期対応を行う。
- 患者情報を収集し、最新の医学的知見に基づいて、患者の意向や生活の質に配慮した臨床決断を行う。
- 保健・医療・福祉の各側面に配慮した診療計画を立案し、実行する。
3.診療技能と患者ケア
臨床技能を磨き、患者の苦痛や不安、考え・意向に配慮した診療を行う。
- 患者の健康状態に関する情報を、心理・社会的側面を含めて、効果的かつ安全に収集する。
- 患者の状態に合わせた、最適な治療を安全に実施する。
- 診療内容とその根拠に関する医療記録や文書を、適切かつ遅滞なく作成する。
4.コミュニケーション能力
患者の心理・社会的背景を踏まえて、患者や家族と良好な関係性を築く。
- 適切な言葉遣い、礼儀正しい態度、身だしなみで患者や家族に接する。
- 患者や家族にとって必要な情報を整理し、分かりやすい言葉で説明して、患者の主体的な意思決定を支援する。
- 患者や家族のニーズを身体・心理・社会的側面から把握する。
5.チーム医療の実践
医療従事者をはじめ、患者や家族に関わる全ての人々の役割を理解し、連携を図る。
- 医療を提供する組織やチームの目的、チームの各構成員の役割を理解する。
- チームの各構成員と情報を共有し、連携を図る。
6.医療の質と安全の管理
患者にとって良質かつ安全な医療を提供し、医療従事者の安全性にも配慮する。
- 医療の質と患者安全の重要性を理解し、それらの評価・改善に努める。
- 日常業務の一環として、報告・連絡・相談を実践する。
- 医療事故等の予防と事後の対応を行う。
- 医療従事者の健康管理(予防接種や針刺し事故への対応を含む。)を理解し、自らの健康管理に努める。
7.社会における医療の実践
医療の持つ社会的側面の重要性を踏まえ、各種医療制度・システムを理解し、地域社会と国際社会に貢献する。
- 保健医療に関する法規・制度の目的と仕組みを理解する。
- 医療費の患者負担に配慮しつつ、健康保険、公費負担医療を適切に活用する。
- 地域の健康問題やニーズを把握し、必要な対策を提案する。
- 予防医療・保健・健康増進に努める。
- 地域包括ケアシステムを理解し、その推進に貢献する。
- 災害や感染症パンデミックなどの非日常的な医療需要に備える。
8.科学的探究
医学及び医療における科学的アプローチを理解し、学術活動を通じて、医学及び医療の発展に寄与する。
- 医療上の疑問点を研究課題に変換する。
- 科学的研究方法を理解し、活用する。
- 臨床研究や治験の意義を理解し、協力する。
9.生涯にわたって共に学ぶ姿勢
医療の質の向上のために省察し、他の医師・医療者と共に研鑽しながら、後進の育成にも携わり、生涯にわたって自律的に学び続ける。
- 急速に変化・発展する医学知識・技術の吸収に努める。
- 同僚、後輩、医師以外の医療職と互いに教え、学びあう。
- 国内外の政策や医学及び医療の最新動向(薬剤耐性菌やゲノム医療等を含む。)を把握する。
C. 基本的診療業務
コンサルテーションや医療連携が可能な状況下で、以下の各領域において、単独で診療ができる。
1.一般外来診療
頻度の高い症候・病態について、適切な臨床推論プロセスを経て診断・治療を行い、主な慢性疾患については継続診療ができる。
2.病棟診療
急性期の患者を含む入院患者について、入院診療計画を作成し、患者の一般的・全身的な診療とケアを行い、地域連携に配慮した退院調整ができる。
3.初期救急対応
緊急性の高い病態を有する患者の状態や緊急度を速やかに把握・診断し、必要時には応急処置や院内外の専門部門と連携ができる。
4.地域医療
地域医療の特性及び地域包括ケアの概念と枠組みを理解し、医療・介護・保健・福祉に関わる種々の施設や組織と連携できる。
Ⅱ 経験目標
1.必修症候
外来又は病棟において、下記の症状を呈する患者について、病歴、身体所見、簡単な検査所見に基づく臨床推論と、病態を考慮した初期対応を行う。
- ショック
- 体重減少・るい痩
- 発疹
- 黄疸
- 発熱
- もの忘れ
- 頭痛
- めまい
- 意識障害・失神
- けいれん発作
- 視力障害
- 胸痛
- 心停止
- 呼吸困難
- 吐血・喀血
- 下血・血便
- 嘔気・嘔吐
- 腹痛
- 便通異常(下痢・便秘)
- 熱傷・外傷
- 腰・背部痛
- 関節痛
- 運動麻痺・筋力低下
- 排尿障害(尿失禁・排尿困難)
- 興奮・せん妄
- 抑うつ
- 成長・発達の障害
- 妊娠・出産
- 終末期の症候
2.必修疾病・病態
外来又は病棟において、下記の疾病・病態を有する患者の診察にあたる。
- 脳血管障害
- 認知症
- 急性冠症候群
- 心不全
- 大動脈瘤
- 高血圧
- 肺癌
- 肺炎
- 急性上気道炎
- 気管支喘息
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
- 急性胃腸炎
- 胃癌
- 消化性潰瘍
- 肝炎・肝硬変
- 胆石症
- 大腸癌
- 腎盂腎炎
- 尿路結石
- 腎不全
- 高エネルギー外傷・骨折
- 糖尿病
- 脂質異常症
- うつ病
- 統合失調症
- 依存症(ニコチン・アルコール・薬物・病的賭博)
3.その他(経験すべき診察法・検査・手技等)
- 医療面接
- 身体診察
- 臨床推論
- 臨床手技
- 検査手技
- 地域包括ケア・社会的視点
- 診療録
2. 研修の記録、達成度評価
(1)はじめに
臨床研修に係る記録、研修医の評価については、インターネットを用いたオンライン卒後臨床研修評価システム(EPOC2)により行う(令和2年度の研修開始から運用)。研修期間中の評価(形成的評価)では主に「研修医評価表I/II/III」、研修期間終了時の評価(統括的評価)では「臨床研修の目標の達成度判定表」を用いる。
(2)研修医がEPOC2に記録すべき内容
臨床研修に係る記録、研修医の評価については、インターネットを用いたオンライン卒後臨床研修評価システム(EPOC2)により行う(令和2年度の研修開始から運用)。研修期間中の評価(形成的評価)では主に「研修医評価表I/II/III」、研修期間終了時の評価(統括的評価)では「臨床研修の目標の達成度判定表」を用いる。
(3)達成度評価
I 研修期間中の評価(形成的評価)
到達目標については前項B.1の記載のとおりであるが、達成度については、研修分野・診療科のローテーション研修終了時に研修医評価表I/II/IIIを用いて評価を行い、半年に一回は研修医に形成的評価(フィードバック)を行う。
① 研修医評価表Iは「到達目標A.医師としての基本的価値観(プロフェッショナリズム)」に関する4項目(1社会的使命と公衆衛生への寄与、2利他的な態度、3人間性の尊重、4自らを高める姿勢)の評価であり、以下の4段階で評価する。
- レベル1: 期待を大きく下回る、
- レベル2: 期待を下回る、
- レベル3: 期待通り、
- レベル4: 期待を大きく上回る、
- 観察機会なし
② 同評価表IIは「到達目標B.の資質・能力」に関する9項目(1医学・医療における倫理性、2医学知識と問題対応能力、3診療技能と患者ケア、4コミュニケーション能力、5チーム医療の実践、6医療の質と安全の管理、7社会における医療の実践、8科学的探究、9生涯にわたって共に学ぶ姿勢)であり、以下の4段階で評価する。
- レベル1: 医学部卒業時に習得しているレベル
- レベル2: 研修の中途時点(1年終了時に習得されているべきレベル)
- レベル3: 研修終了時点で到達するべきレベル
- レベル4: 他者のモデルになりうる(上級医として期待できるレベル)
- 観察機会なし
EPOC2では各レベルの中間レベル(例えば2と3の間、2.5など)での入力が可能となっている。
③ 同評価表IIIは「到達目標C.の基本的診察業務」に関する4項目(1一般外来診療、2病棟診療、3初期救急対応、4地域医療)であり、以下の4段階で評価する。
- レベル1: 指導医が直接監督下で遂行可能
- レベル2: 指導医がすぐに対応できる状況下で遂行可能
- レベル3: ほぼ単独で遂行可能
- レベル4: 後進を指導できる
研修終了時には4診療場面についてレベル3以上に到達できるよう指導を行うが、診療場面の様々な要因によって達成の経験度、難易度が異なるため、一様に判定することは容易ではないが、できる限り複数の分野、診療科での多くの観察機会を得ることによって最終的な評価の妥当性を確保する。
④ 臨床手技、検査手技については、自己評価も含めて以下の5段階で評価する。
- レベル1: 介助ができる
- レベル2: 指導医が直接監督下で遂行可能
- レベル3: 指導医がすぐに対応できる状況下で遂行可能
- レベル4: ほぼ単独で遂行可能
- レベル5: 後進を指導できる
II. 研修期間終了時の評価(統括的評価)
研修医が臨床研修を終えるにあたって、臨床研修の目標を達成したかどうか(既達、未達)をプログラム責任者が臨床研修の目標の圧制度判定表に記載し臨床研修管理委員会に報告する。同委員会は当該達成状況の報告に加え、研修を実際に行った期間や、医師としての適性をも考慮して、研修修了認定の可否を評価し病院長に報告する。